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吐き出した白い息が、夜空に上り消える。星空の下、なんとなく冬木の街で、皆と一緒に過ごした日々を思い出した。
もう十年以上前だったように錯覚するのはどんな物なのか……最近、時が経つペースがかなり早くなっていると感じるのは、やはり、自分が生き急いでいるという証拠なのだろうか。
話し合いが一段落した後、シャマルがはやてに電話を入れたのが先ほどの事。予想通り、はやての方は月村家で世話になっていたらしい。
まるで懺悔するかのように何度も謝るシャマルの姿に居た堪れず、何となく一人になりたかった事も有り、シグナム達に許可を取った後、寒空の下、八神家のベランダへと一人、足を向けた。
望月まであと二、三日か。綺麗な新円とまではいかないが、考えに耽(ふけ)るにはこの上無く上等な夜である。
(闇の書……か)
今回関わったロストロギアなる遺物。その正体はさまざまな知識を蓄えた旅する魔導書なのだとか。
そこまでの知識を持ってして、意思ある魔導書は一体何を求めるのだろうか。
持つ者に破滅しか齎(もたら)さないと言うのであれば、間違い無く士郎が対処すべき危険物に違いない。
あの魔導書から感じる闇は本物だ。直視した士郎だからこそそう言える。
だが――――それもあの守護騎士達を見る度に考えが揺らぐ。
(ずっと……この場所で笑って居たかったんだろうな。四人とも)
情状酌量があると言えば聞こえは良いかもしれないが、それでも自らの意とは関係無く状況が動くことがある。
それが今だとすれば、運命はなんと皮肉で残酷なものか。
そうやって、束の間の平穏と分かっていながら、それに縋りたくて何も言えず闇に埋もれてしまった少女の姿を自分が知っているだけに、二度の過ちを繰り返させたくは無いと、そう考えた上での行動だったのだが……結局はそれも自分のエゴでしかないのだろうか?
(桜……)
幼少から過酷な運命を背負わされ、衛宮家に来るまで笑いもしなかった少女の姿を思い浮かべる。
助けを求める術を知らず、彼女が出していたサインにも気づけなかった自分を罵倒しながら、徐々に人でない別のモノとなっていった少女を、あの時は何とか救おうとした。その結果、相当な罪を彼女は背負ってしまったものの、それに比例して小さな幸せを手に入れることが出来た結果は、僥倖と言って差し支えないだろう。
昔と違い、心身共に強くなった今でこそ犯した罪に向かい合う姿勢を見せてはいるが……それでも自身が付けてしまった物も含めた傷は小さくない。
今の状況は、あのときの繰り返しとならない保障はあるのだろうか? 出来うるならば、彼女……いや、彼女以外の四人も含めた悲しみや罪を、すべて背負うことが出来ないものか……。
そして、出来うるならば闇の書の蒐集で犠牲となる人間を少しでも減らしたい。ここまで無力な自分を支えてくれた人の為にも、亡くなってしまった人の想いの為にも。
「正義の味方は、味方した人間しか救わない……か」
乗せるべき天秤の皿、切り捨てるべき総量、その想像を頭を振って払うと同時……自身の後ろに立つ気配を感じ、振り返らずに呟く。
「どうした? まだ何かあるのか?」
敵の本拠地で無謀な戦闘は避けると言っていたシグナムの言から、襲撃の危険性は無いと見ていたが……それでも、最低限の警戒は忘れない。
背後に立つ気配はここ数時間ですっかり慣れたものだ。二人……感じからしてシグナムとシャマルか。電話の方は終わったのだろうかと思ったが、微かにヴィータの声が聞こえてくる所から、はやてが代わるように言ったのかヴィータがせがみ代わったのかしたのだろうと、適当に理由付ける。
いきなり声をかけられるとは思ってなかったのか、背後の気配のうち一人が息を呑む気配がするが、それを押して、もう一人が声をかける。
「なに、私たちも外の風に当たりたくてな。主はやてに今後の事を説明するためにも、お前に相談する事もあったので丁度良かった」
「名前」
「?」
いきなり話の腰を折るような言葉に、黙る気配を感じながら、ゆっくりと背後へ振り返る。
「だから名前だよ。何時までも『お前』じゃあ、他人行儀過ぎるだろう」
「…………」
無言の圧迫。それを肌で感じながらそれでも折れぬ意思を持つ士郎に対し、シグナムは無言、シャマルは驚いたように目を丸くする。
まあ、いきなりそんな事を言われれば仰天するのは道理だが……それでも曲がりなりにも協力体制にある関係で、他人行儀なのは流石に士郎も勘弁願いたかった。
あの後、意外にあっさりと自分の条件を呑む事をシグナムは認めた。
やはりと言うべきか、最後までヴィータはシグナムの判断に反対していたものの、シャマルの控えめな賛成と、ザフィーラの無言の肯定を前に結局は折れる形となった。
その事自体は士郎も望むべくして叶った願いではあったが、今後の課題も露見する。取り合えずヴィータと少しでも友好な関係を築く方法が、自分にはとんと思いつかない事はかなりの問題だ。
暫く無言でこちらへ視線を向けていたシグナムが視線を緩め、ため息を吐く。どうにも振り回されている感が否めないようだ。士郎にとっては心外かもしれないが。
「そうだな。『衛宮』――ああ確かに、此方の響きの方がしっくり来るな。これで良いか?」
「…………」
その言葉に、思わず返事すら忘れてきょとんとした顔を晒してしまう士郎。それを見てシグナムの顔が不審げに歪む。『お前が言ったことを実践してやったのにどう言う事だ』という無言の圧力に、士郎は慌てて首を縦に振った。
「あ、ああ。それで構わない。しかし意外だったな。てっきり『そんな条件呑めるかー』ってばかりに、突っぱねると思ってたのに」
「……お前は何の確証も無くあんな条件を口にしたのか? だとすれば相当、我々も舐められたものだ」
そう言い置いて、どうにも相手のペースに嵌っていると感じたのか、苦りきった顔で眉を顰(ひそ)めるシグナム。それを苦笑しつつ、士郎は宥めるかのように口にする。
「いやすまん。だが、あの言葉に偽りは無いぞ。俺はそのときが来れば必ずさっき言った事を実行に移す。それだけの覚悟はあるつもりだ」
そう言い添えた自分の顔を、わずかに横目で見やりつつ、何かを思考するシグナムに対し、今まで無言であったシャマルが、取り成すように口を添える。
「そのことに対しては、私たちも覚悟は出来ているわ。さっきはシグナムに全てを任しちゃったけど……私たちの総意にも変わりは無いわよ」
「もしそれで、部外者の俺が、はやてちゃんを不幸にしても構わない、と?」
「そうね、そこは難しい所だけど……元から、ある程度は覚悟してたから。私もシグナムもザフィーラも……ヴィータちゃんだって、その時が来れば躊躇いは無いでしょうね」
そんな事を言いながら、ふと微笑むようにシャマルが表情を変えたことに、士郎は気づいた。
何だろうか? 何か彼女を笑わせるような事をしたとも思えなかったが……その顔は明らかに此方の事を好意的に見ている顔だった。
「それに貴方、士郎君の顔を見たら、何となくそんな事にはならないから大丈夫、って思えちゃうから。――不思議よね。会ってからそんなに経ってないのに、そんなこと言えるなんて」
それは士郎にとっても、意外な言葉だった。どこでこんな風にシャマルの評価を底上げするかのようなやり取りがあったものか、暫し真剣に悩んでしまうほどに。
その表情に満足げな顔を見せながら、どこか悪戯っぽく、シャマルは続ける。
「士郎君、気付いてないでしょう? 私が『覚悟はしてる』って言った時、とっても嫌そうに顔歪めてたの、こっちは気づいていたわよ?」
「え?」
無意識の内に表情が顔に出ていたのか、思わずぺたりと顔に手を当てて確認してしまう。今から考えれば、それこそがシャマルの望んでいた反応だったのだろうが。
「そんな……冗談でしょう?」
「ええ、冗談よ」
「な――っ!」
真顔でそんな事を言ってのける彼女に対し、開いた口が塞がらない、と言う表情の士郎。まんまと嵌められた、と言うところか。
それを確認した事で、今度こそクスクスと意地悪く笑う。何と言うか、遊ばれているような気がして釈然としない。それとも自分は、会って間もない女性に一度はからかわれる運命でも背負っているとでも言うのだろうか。
やおら笑顔を収めたシャマルが真剣な表情をする事で、先ほどまで蟠(わだかま)っていた、ほのぼのとした空気が、真剣みを帯びたものに変わる。
「私としても、士郎君が条件を提示してくれた事に、逆に安心してる。だって貴方、幾らなんでもいきなり協力する上に、魔力を差し出すなんて唐突な事を言ったら……みんな最初は警戒して当然だと思うわよ」
それには傍らでシグナムも深く頷いていた。自分としては本心からの言葉だったのだが……やはり、素直に受け入れられる様な物では無かったか。
そんな風に自問自答している最中、ヴィータがひょいっと(士郎に向けて敵愾心を向けることも忘れず)顔を出しながら、シグナムに対し声をかけた。
「シグナム、はやてが代わってって」
「……ああ、分かった。済まないが、少し席を外すぞ」
そう言いながら歩き出すシグナムの足、それが一度だけぴたりと止まる。何があるのかと士郎が顔を向けたのに合わせるかのように、シグナムがこちらを見据え、口を開いた。
「お前……衛宮がどのように考えるのか、それは自由だ。だが、我々は曲がりなりにも同じ利害から協力体制になった。お前は闇の書と私たちを監視し、私達もお前を監視する。言葉は悪いが、こう言った方がしっくりくるだろう」
「…………」
「お互いに目的がある身、それを違えるようならば、その時は私たちを裏切るなりすれば良い。無論、お前が私たちにそのような事をすれば、相応の代償は払ってもらう事になるがな」
それだけを置き去りに、今度こそこちらを振り返ることも無く歩き出す。それを見据えて、心の中だけでため息を吐いた。
(やれやれ……これから、どうなることか)
これからの新たな戦いにプラスとなるか、マイナスとなるか。それすらも分からず。
同盟を結びながら明らかに統制が取れていない現状、どのように立ち回るべきかを思考しながら、もう一度だけ月を見上げ、思考の只中に没頭していった。
この後、彼女たちとまたひとつ悶着があり、いろいろな意味で自分を見る視線が変わる事件があったりもするのだが……それはまた別の機会となるべき話だった。少なくとも、自分はそれ以上の言葉を、この時点では持っていなかったのだから。
12月11日 AM 10:18 時空管理局 本局
ユーノ・スクライアは、目の前の光景を呆然と眺めていた。
先日、クロノ・ハラオウンに頼まれ、管理局の本局まで足を運んだ……そこまでは良い。
会って欲しい人物がいるという事で、会議室の一角に足を運び、扉を開けてみた所、挨拶もそこそこにクロノに飛び付く影が無ければ、ユーノ自身も、ここまで気後れはしなかっただろう。それ位、印象的な出会いだった。
「クロ助! お久しぶりぶりぃ~♪」
「ロッテ! ちょ、離せ! コラ!」
まるでお気に入りの飼い犬にするかのように擦り寄せる頬。クロノも何とかその手から逃れようと足掻くものの悲しきかな、身長の差と見た目に似合わぬ力強さで、そのまま逆に押し倒されてしまう。
「リーゼアリア、お久し」
「うん、お久し」
二人に一緒について来たエイミィ・リミエッタの方はと言えば、クロノに抱き付いている方とは別の、よく似たもう一人の方へと近づき、訳知り顔でその横に佇んでいる。
茶褐色の髪と青い瞳、黒いワンピース型の衣装下から覗くふんわりとした毛色のしっぽと頭から生えた三角形……獣耳は間違いなく人のそれでは無い。
慣れたものなのか、クロノを襲う(?)ロッテと呼ばれた少女を見やる二人の視線は生暖かく、この行為が何度も行われていた事を知っている顔であった。
「ごちそうさま……ん?」
やがて、ひとしきりじゃれ合いが済んだのか、舌なめずりするかのような顔が、新たな獲物を捕らえたかのような顔でこちらへ振り向いた。
「む、何か美味しそうなネズミっ子がいる」
動物的直感で鼻をひくつかせながらゆっくりこちらを品定めするかのような視線に、ユーノの背中に、得も言われない悪寒が走った。
まるで活きの良い獲物を見るような三白眼と猫口は、見る人が見れば、謎の吸血生物や冬木の虎と呼ばれた危険生物を思い浮かべただろう。残念ながら、ユーノには得られようも無い知識ではあったが。
「ど・な・た?」
「う、え……?」
ユーノが返答に困り何も言えないでいる傍ら……顔中にキスマークをつけた状態という、這う這う(ほうほう)の体で起き上がりつつ、恨めしげに語るクロノ。
「なんで……あんなのが僕の師匠なんだ……」
そんな事を外の世界で言おうものならば、数十回切り殺されても文句は言えないような言葉だと、なんとなく頭で考えるユーノだった。
リーゼアリアにリーゼロッテ。
本局の英雄と呼ばれるギル・グレアム提督の使い魔であり、クロノの魔法戦の師匠であり、管理局でも有数な使い魔だとの話だ。
魔法戦をリーゼアリアが、近接戦をリーゼロッテが担当するという、攻守の前衛・後衛をちょうど二人で割り振った布陣は、並の魔導師では切り抜けることが不可能なほどのコンビネーションだとか。
まあ、実際に会ったユーノとしては、ロッテが時折向ける視線に引きつった笑いを返すのが精一杯で、とてもそのような優秀な人物には見えなかった、というのが本音なのだが。
クロノがリーゼ姉妹に会った本来の目的は、「無限書庫」に関する事だと、道すがら話は聞いていた。
管理局の保護を受けている世界の書物が全て治められた超巨大データベースの名は、スクライアの一族にも名前だけは伝わっていた。まさか、それに触れる機会があるとは思わなかったが……成る程、元々歴史や文化の遺産を探索する目的を持つ一族の力を借りて、闇の書のデータを検索しようという、その試みは悪くない。
品定めされるかのような視線に、緊張の面持ちで耐えるユーノに対し、ふと、何かに気付いたかのようにクロノが疑問の声を上げたのは、話も纏まる、その直前のことであった。
「ん……? ロッテ、どうしたんだ? その足」
「へ?」
きょとんとした顔でその言葉に答えるロッテ。それにつられるように、ユーノも視線を移す。
先ほどは気付かなかったが、その足には白い布……包帯が巻かれている。使い魔とは言っても、魔力供給により体力、気力などは維持できても、実際に怪我をすれば、それを治療するために手当てを受けるのは人間と変わらないものだ。
「怪我か? 珍しいな、新人の訓練で何かあったのか?」
「んー、まあね」
「?」
先ほどまでのはきはきした様子とは違い、どこか曖昧に答えるロッテに、不思議そうな表情のクロノ。
彼の表情から何かを察したのか、あまり表情の変わらないアリアが、その先を引き継ぐかのように口を挟んだ。
「何でも研修で結構骨のある子がいて、その子の訓練中に油断して怪我したんだって。その事で暫くぶすーって感じで膨れちゃって、こっちが機嫌直すの大変だったくらい」
「ちょっと、アリア……」
その事を思い出したのか不機嫌そうに表情を歪めるロッテ。だが、クロノの方はそれとは別の事に頭が働いたらしい。
「な――――待て、ロッテに手傷を負わせたって言うのか?」
心底驚いたような表情に、今度はクロノに向けて、顔を曇らせたロッテが口を開く。
「む。何よ、確かに油断しちゃったのはこっちだけど、そんな風に化け物を見るかのような表情をしなくても良いじゃない」
「そういう自分が、訓練と称して僕にどれだけの行いをしたのか、言っても良いか?」
「それは……まあ、弟子に対する愛で片付けられるでしょう?」
「そんなはずがあるか! あれは――――」
やがて、何かを思い出したらしいクロノが反論しようと腰を上げた所で……自分の様子に気づいたのだろう。こほん、とひとつ咳払いをしながら、心を落ち着けるようにソファに座り直す。
何だろうか? 彼の尋常ではない様子に、聞いてみたいという衝動と、それに勝る、触れないで置きたいと言う衝動の二つがユーノの心に残る。まあ、やぶ蛇を突付くような危険な真似をする気は無いので、心の内だけに留めておくに越した事は無かろうが。
「すまん、少々取り乱した……だが、新人でロッテ相手にそこまでやれるなんてな。一体どんな奴なんだ?」
先ほどの愕然とした表情からしても、どうやらクロノにとってはロッテに一撃入れられたことは賞賛に値する行為らしい。珍しく興味本位で聞いてきたクロノの言葉に、しばし顔を見合わせる二人。
やがて、それに答えるように、ロッテがゆっくりと口を開いた。
「そうだねえ。一言で言えばクロ助っぽい奴だったかな」
「僕っぽいって、どういう事だ?」
「言葉通り。姿はクロ助とは似ても似つかないんだけど……なんて言うのかな。戦い方が良く似てるって言うか、常に先の状況を見据えたような戦い方をする奴ではあったよ」
そうやってロッテが語る戦闘のスタイルは、あえて評するならば「剣」のようだったとか。
常に自分と相手の力を推し量り、立会いの中で自分をまんまと罠に嵌めて、一瞬だけとは言え出し抜くまでの手腕をロッテが説明した後、クロノの方はこれまた珍しく感心した様子で頷いていた。
恐らく、ロッテが語る内の戦術が、クロノの中の何かを刺激したのだろう。フェイトから聞いた嘱託試験の際の手際と比べると、それが中、遠距離戦と近接戦の違いこそあれ、確かにクロノの戦術に重なるものもある。
「機会があるならば会ってみたいな。今は本局の方にはいないのか?」
「あー、配属も決まってないみたいだし、今は会うの難しいかも」
「……そうか。まあ、仕事絡みで偶然会う事を期待するか」
大して期待していないように言うクロノに対し、応じたのは何処かやる気の無い仕草でぴらぴらと手を振っていたロッテではなく、アリアだった。
「そう、だね。このままいけば、いつかまた会えるかもしれない」
「……?」
俯いていた為、表情がわからず、声音も普通だったというのに、何故か先ほどとは違う意味で寒気を覚えるような口調だった。
その後は何事も無かったように言葉を発していたものの……ユーノはそれに何か不吉なものを感じた気がした。
それが何を意味していたのか、理解するのはまた暫くの時が必要だった事を、彼は知らず……やがて本来の用件、無限書庫での作業の話に移行する際には、頭の片隅からすっかり抜け落ちていた。
少々用があるので、先に行ってくれとクロノ達三人を送り出したアリアは、ほっ、と息を吐きながら……徐に、ロッテの方へ責めるかのような視線を向けた。
「全く、冷や冷やしたわよ。私が合わせてなければ、ちょっと危なかったんじゃない?」
「うん、ごめん」
先ほど談笑していたときからは考えられないほどの真摯な表情で、素直に謝るロッテに対し、苦笑したような面持ちで、アリアも言い直す。
「まあ、こっちもロッテが追い詰められるとは思ってなかったから、お相子かもしれないけど……」
そう言いながら、徐に伸びた指先が虚空を捉える。いつの間にか出現した管理局端末のコンソールに素早く何事かの数値や文字列を打ち込んだ瞬間、先ほどまでの明るかった会議室の照明が落とされ、一つのモニターと幾つかのグラフ、計測を示す数値が画面上に表示される。
そこに映された人物の姿を、やや苦味を含んだ顔で、ロッテは見つめた。
「衛宮士郎……出身は日本だって事と、『魔術』なる魔法形態を使うこと以外に、分かってる事は無いの?」
「うん、それなんだけど」
やがて、アリアの指がさらに高速でコンソールの上を踊る。そこに、まるでアラートのように点滅しながら画像に重なるかのような赤文字が表示された。
「ちょ、これって……」
「ええ」
ミッドチルダ語で表示された言語の意味は「UNKNOWN」
驚いたように眉を顰めるロッテに対し、アリアは静かに頷く。
「衛宮士郎の名前で検索をかけてみたけど全滅。騎士達や現地人には日本出身って言ってたみたいだけど……該当する人物の戸籍、家族関係や背後関係、その他、一切の経歴が不明。後検索していない領域と言ったら、一級レベルの機密情報が幾つかと、無限書庫の情報くらい」
「そこまですっぱりと不明だと、ある意味潔いわよね」
「ええ。今後の指針としては、闇の書の文献探索に協力する傍ら、無限書庫のデータ閲覧で検索するので問題は無いと思うけど……それとは別に新たな問題があるのよ」
「? どんな?」
疑問の顔のロッテに対し、三度高速でコンソールを叩くアリア。やがて、新たに起動されたデータに、ロッテの視線が集中する。
そこに表示されたのは3Dで示された波形グラフだ。幾つかの小難しい数値や文字列の上にひときわ大きく表示された文字は「Buch der Dunkelheit(闇の書)」恐らくアリアが取得したデータを元に作り上げた資料の一つであろう。
「これは、監視対象である八神家のここ一か月分の闇の書の魔力パターンを波形グラフに直したもの。今月に入って急激な魔力上昇が幾つかあったものの、それ以外はほぼ安定していると言っても過言じゃないわね」
「ふーん。それで、これがどうかしたの?」
「ええ、これだけ見ると確かに分からないわよね……だけど……」
やがて、そのグラフに重なるかのように、もう一つのグラフが3D投影される。暫くは何をやっているのか理解出来ず訝しげだったロッテの表情は、あるデータの数値と、そして二つのグラフがほぼ綺麗に一致した結果を見据えた瞬間、驚愕に目を見開き、物音を立てて立ち上がっていた。
「な――――っ! アリア、これ……」
「……計測数値が出たときは、私も驚いたけどね。AIの計算でも90%近くの確率で同一だって言う結果が出てる。AI機能に異常が無い現状ではまず、間違い無いわ」
「けど、こんなの、幾らなんでも」
狼狽した様子のロッテに対し、アリアは淡々と結果だけを見つめている。ある意味知らせる側だった余裕からだろうか、その表情には厳しく歪められた顔だけで、狼狽する様子は無い。
「やはり、父様にもう一度確認した方が良いかもしれない。こんなに早く私たち二人が出撃するなんて計算外だったし……当面は『彼(イレギュラー)』の監視を含めた対症療法に為らざるを得ないと思うけど」
「……騎士達に合流したんだっけ? その点では僥倖なんじゃない?」
「ええ。ただ流石に『闇の書とほぼ同質の魔力反応を持つ』人間なんて始めて見たわ。ロッテ、今後の事」
「うん、分かってる」
そうして、もう一度だけ二人で見上げたそのグラフ、折り重なるように見える文字は闇の書の他にもう一つ記入されていた。
Shiro Emiya――――衛宮士郎、と
Act.11 END
ここの作品を見て「久しぶりにリリなのクロスで士郎らしい士郎を見たな~」と感動しました。
今回の更新速度は異常だ、などと失礼なことを思ったりしつつも次回の更新を楽しみに待っていますので頑張ってください。
なにはともあれ、更新お疲れ様です。人物間のやり取りが相変わらず違和感無くて良かったです。
八神家+士郎の日常風景とか、忘れ去られてるなのは達の方期待してます。
次回も楽しみに待ってますんで、暑さに気を付けて頑張って下さい。
ヴィータが本文でぶっちゃけていますけど、フツーに考えて、100~1000人に無差別強奪してたらそもそも情状酌量の余地なんてまったくないんじゃ。。。
人が死ななきゃいいというものではないだろうに。。。
なのは達との邂逅はどうなるのか?気になるところです。
アーチャー発言するシグナム、違和感がないことに驚きました。
では、無理せず頑張ってください。次回も期待してます!!
某サイトのSSで魔法のようにアクションのあるものより拳銃や爆弾などのタイミングがわからないものの法が厄介だというものがありました。
この設定があると紛争などを経験した士郎の心眼(真)や先の状況を見据えた戦い方がうまくなるわけだね。
皆さんおっしゃてますが、違和感なく読めるのと
文章が面白いです。こういうのが無料で読めるとは良い時代になったなぁ~
ありがとうございました!
今後とも無理にならない範囲で頑張ってください。応援してます。
し協力もする、そんなモノが士郎のあこがれた、
『綺麗な理想』なのでしょうか。
そういう理由を持って『強盗』してしまう人すら
も助けたい、という理想と強盗に協力することは
別でしょうに。
あと、『パーフェクト執事(笑)』のくせに雇い主
である月村家へ迷惑がかかる可能性を考えず鉄火
場に飛び込むお馬鹿さはいただけない。
結果的に飛び込むことになっても、一瞬そういう可能性を考えるシーンを挟むだけで士郎の成長と慎重さを表現できるはず。
11話(1)
存外にそう訴えかけるように無言で、起きたばかりだと言うのにどこか疲れたような表情のシグナムに、慌てて取り繕うようにシャマルが声を上げる。
>「存外(物事の程度が予想と異なる)」ではなく「言外(言葉に出さない部分)」ではないかと。
星空の元、シグナムにそう言ったはやてに対し、その尊い願いを守る事を固く誓う守護騎士達。
>「星空の元」は「星空の下」の方がいいかと。読みは同じですが、意味が取りやすくなると思います。
「そうだな。闇の書が完成すれば管理人格が覚醒する。管理人格自体は主はやてに忠実なはずだ。何かあっても、管理者権限を行使できる以上、暴走を食い止めることも可能だろう」
>「管理人格」ではなく「管制人格」ではないかと。
11話(2)
今回関わったロストロギアなる遺物。その正体はさまざまな知識を蓄えた旅する魔道書なのだとか。
>「魔道書」が夜天の書を現すのなら「魔導書」とした方が意味が通りやすいかと。
昔と違い、心身共に強くなった今でこそその罪に真っ向から向かい合う姿勢を見せてはいるが……それでも自身が付けてしまった物も含めた傷は小さくない。
>「今でこそその罪に」で「そそ」と続くのは少し読みづらいです。「今でこそ自らの罪に」とした方が読みやすいと思います。
背後に立つ気配はここ数時間ですっかり慣れたものだ。二人……感じからしてシグナムとシャマルか。電話の方は終わったのだろうかと思ったが、
微かにヴィータの声が聞こえてくる所から、はやてが代わるように言ったのかヴィータがせがみ変わったのかしたのだろうと、適当に理由付ける。
>「ヴィータがせがみ変わったのか」は「代わったのか」が正しいかと。
そう言い添えた自分の顔を、わずかに横目で見やりつつ、何かを思考するシグナムに対し、今まで無言であったシャマルが、取り成すように口を添える。
>この一文の流れが少し分かりません。「言い切った」士郎に黙考したシグナム、二人の間をシャマルが取りなした、のなら分かるのですが。
そんな事を言いながら、ふと微かに微笑むようにシャマルが表情を変えたことに、士郎は気づいた。
>「微かに微笑む」だと意味が重なっていて「笑ったようなそうでないような」と言う風に取れてしまいます。「微笑む」だけでいいかと。
無意識の内に表情が顔に出ていたのか、思わずぺたりと顔に手を当てて確認してしまう。今から考えれば、それこそがシャマルの望んでいた反応だったのだろうが。
>「今から考えれば」は過去を思い出して書く手記や日記形式の作品なら合うと思いますが、これはそういう形式だったでしょうか?
そうでないなら「後から考えれば」とした方が良いと思います。
「シグナム、はやてが変わってって」
>「変わって」は「代わって」ではないかと。…この場面でいきなりシグナムが変身したら楽しいでしょうけどww
「お前……衛宮がどのように考えるのか、それは自由だ。だが、我々はまかりなりにも同じ利害から協力体制になった。お前は闇の書と私たちを監視し、私達もお前を監視する。言葉は悪いが、こう言った方がしっくりくるだろう」
>「我々はまかりなりにも」は「我々は曲がりなりにも」の方が正しいと思います。
「お互いに目的がある身、それを違えるようならば、その時は私たちを裏切るなりすれば良い。無論、お前が私たちにそのような事をすれば、相応の代償は払ってもらう事になるがな」
>誤字ではないですが出だしの部分は「お互いに目的がある身。それを違えるようなら~」と区切った方がいいかと。
その後の「無論~」は前の部分で「士郎がシグナム達を裏切る」事が匂わされているので、途中の「お前が私たちに~」という文は
削っても良いかと思います。この場面ではシグナムがはやてからの電話を待たせているので、出来るだけ短くした方がテンポがいいかと。
ユーノが返答に困り何も言えないでいる傍ら……顔中にキスマークをつけた状態という、這う這う(ほうほう)の体で起き上がりつつ、恨めしげに語るクロノ。
>「顔中にキスマークをつけた」は「付けられた」が正しいかと。付けたのはロッテですから。
時間がなくてざっと読んだだけの時は気付かなかったのですが、改めて読み返してみると気になる点がいくつかあったので、今回指摘させて貰いました。時間があった時にでも直して頂けると、嬉しく思います。それでは。