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since 2007/10/21                    ここは主に、SS系二次創作の公開を目的にしたサイトです。
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 Sword of A's Act.1


 雲ひとつ無い晴れた空に浮かぶ月を見ながら、今は11月の終わりだったかな……と薄ぼんやりとした思考を浮かべる。 

 今日本にいればもうすぐクリスマスシーズンで、クリスマスにはパーティと称した楽しくも騒がしい夜を送ったのかもなと郷愁的な気分に浸り、思わず、苦笑しながらその考えを打ち消した。

 深い森だった。

 いつもならば野鳥その他の動物が息を潜める森だが、今はその気配を感じ取る事はできない。

 代わりに映るのは戦場の後の凄惨さ……焼け爛れた木と地面、燻り続ける煙と火種、そして黒く炭化した人であったものの成れの果て……。

 そこからやや離れた丘の上、一本杉がそびえる場所に一人の青年が背を預け……五秒も経たないうちに、力尽きたかのごとく音をたてて座り込んだ。

 髪は白く、浅黒い肌に紅い衣装、背は一般的な日本人を凌駕する程の長身、体格は無駄の無いしなやかな筋肉に覆われている。一見すれば歴戦の軍人を思わせる風貌だが、その瞳は無垢な少年のような純真な光をたたえ、それが妙な愛嬌のよさを醸し出していた。

「ふぅ……」

 思わず吹いたため息を抑え、衛宮士郎は一人、遠い祖国の事を思い返していた。

 周りの光景と同じように、士郎自身も酷い有様だった。

 日本人離れした白い髪は煤で汚れ、赤い聖骸布は所々固まった血で黒く染まり、浅黒い腕は数え切れないほどの傷を刻む。足は骨折したのか添え木が据えられ、心なし顔色も悪い。

 が、一番の深手は脇腹に添えられた今も血を滲ませる傷であろう。

 致命傷というわけではないが、放って置けば取り返しのつかない事態になる事は明白だった。自己走査によって導き出した結果は、このままでは明日朝には命の危険に晒されると言うもの。

 打つ手を検索するも、救急キットはすでに使いきり、魔術強化も魔力が底を付きそうになっている現状から不可能。

 助けを呼ぼうにも近くに人の気配は無く、一番近い人里でも十キロ程度の距離があった。そんな途方もない距離を、右足骨折の状態で延々と歩く体力も無い。

 正に絶体絶命。

 にも関わらず、士郎自身は微かに笑みを浮かべ、じっと木に背を預けた体勢のまま空を見上げていた。

(はは……これじゃあ、遠坂達に合わせる顔が無いな……)

 聖杯戦争からおよそ五年、運命の四日間から四年が経過しようとしていた。遠坂凛の元で魔術の修行を積んだ士郎は、凜の付き人としてロンドンの時計塔へ留学。

 イリヤとセラ、リズも付き添いとして従い、桜や藤ねぇといった面々は寂しそうにしながらも、結局は黙って「いってらっしゃい」とだけ士郎に声を掛けた。それが士郎にはとてもありがたかった。

 そして時計塔での日々……自身をシェロと呼ぶ金の魔術師と、遠坂凛、イリヤ、セラ、リズとの騒がしくも楽しい日々。

 魔術師としての衛宮士郎があらゆる意味で逞しく成長した……そして、『彼女』の故郷を訪問した……冬木での日々に勝るとも劣らない大切な時間だった。

  だが、楽しい日々もやがて終わりを迎える。

  時計塔での日々の半ば、衛宮士郎は自身の夢の実現のために、世界を旅する事を凜とイリヤに提案した。

 当然、猛反対されると考えていた士郎だったが、意外にも凜もイリヤもその事についてあっさりしたもので「そう」と言ったきりその事に触れる事は無かった。

 余りにあっけなく了解が取れた事に士郎は疑問に思ったものの、出発する当日にこの言葉を聞いた時にそれもすぐに氷解した。

 「いってらっしゃい」

 ああ、なんだ。と思った。

 その言葉と、やや寂しげな2人の表情を見た時に、士郎はすべてを悟っていた。

 恐らく冬木の2人と同じように、彼女達も分かっていたのであろう。自分が……衛宮士郎が、いつかは旅立ってしまうと言う事に。

  自分が望む正義の味方の在り方を探して一人でも多くの人々を救う。その掌から零れ落ちる者がいないように。みんなが笑える貴き日々のために。

 衛宮切嗣でもない、アーチャーでもない、自身が望みアヴェンジャーが一時の夢として憧れた本当の正義の味方。

(そう……ずっと……俺はそれを追い続けている)

 窮地に陥れば、長年の経験から勝利の方法を模索する士郎自身の戦闘理論。

 その可能性が1%でもあるのならばそれにかけてみる、と言う概念で言えば、今の状態は厳しくはあっても諦念には程遠い。

 だがふと、そんな自分を見返して……思うことがあった。

 正義の味方。なると言い続けて未だ夢の半ばかのごとく成りえた事の無い……士郎にとっての永遠の命題。

 しかし、理想をあざ笑うかのごとく、士郎自身が叶えたものは少ない。

 戦場を駆け、幻想を駆使し、考え、抗い、守り……。

 そうして得たものが自分であったはずだった。

 (だけど……)

 ある戦場では、たった一人の裏切りによって無関係な人々が大勢死んだ。

 ある戦場では、皆を救うために一人の年端も行かない少女が犠牲になった。

 魔術協会の方針に反し、神秘を使い戦い続ける士郎をいつしか協会は『封印指定』と認定、同業者から時には悪辣な方法で襲撃を受け、時に何人もの無関係の人々を、巻き込んだ事さえある。

 今のこの戦いでも多くの人が死に、それよりもずっと多い人々を救えた。

 だが、それだけだ。

 いかに多くを救おうとも、どうしても全ては救えない。

 ふと脳裏に思い出す台詞があるとすれば、気に入らない『アイツ』の言葉。

 

――――その考えがそもそもの元凶なのだ。

       お前もいずれ、オレに追い付く時が来る――――

 

 あの時知った自分の未来とアイツの過去、そして言葉。

 あの時の自分はそれを否定した。お前にはならないと。お前が自分の理想であるのなら、俺はそれを叩き潰すと。

 絶対に、後悔だけはしないと。

(あの時……自分はそう言った。今でもその思いは変わらない。だけど……)

 それでも時々、悩んでしまう事はある。

 自分の正義の味方とは何なのか、と言う事。

 これが本当に、自分が望んだ正義なのかと言う事。

 そしてその考えの中で。

 いつしか本当に、あの時の言葉を後悔してしまうのではないかという恐怖。

 それは考えないだけで、実は自分は気づいてしまってしまっているのではないかと言う恐怖。

『正義の味方』は所詮絵空事で、世界は何かを切り捨てなければ誰かを救えない……そしてどう考えても切り捨ててしまうほうが多いのではないかという、自分が理想とした養父、自分の理想だと言ったアイツが見果てぬ先にたどり着いたそれは――――。

 (! ……ちがう!)

 そこまで思考して、士郎は必死に首を振る。

 そう、違う。同じになんてならない。自分の理想とする『正義の味方』はこんなところで……終わるようなものではないはずだ。

(負けない……)

 立ち上がる。

 焼け付くような痛みがわき腹、そして右足に走る。それを根性だけで押さえ、一歩一歩引きずりながら……亀のようなスピードで歩き出す。

 それは十キロという距離を前にしては無謀すぎる行いに思えた。

 だがそれでも、士郎は歩き続ける。

 己が理想を貫くために。

 自分とは違う生き方を選んだアイツのために。

 そして、不甲斐ない自分を見守ってくれていた優しき人々のために。

「今、帰るから……桜、藤ねぇ……イリヤ、遠坂……」

 そして最後に思い出すのは彼女の顔。

 五年前、衛宮士郎の継起となったあの事件。あの土蔵での出会いと別れの言葉。

 短いながらも生死を共にしたパートナー。そして幻の……しかし確実に存在した四日間の、幸せそうな彼女の顔……。

 

 「――――」

 

 燻る火も消え、晃々と照らす月明りだけに支配された空間。その静寂を破るように、二つの足音が深い森の中、凄惨な傷跡が残る現場に向かって歩いて来た。

 足音は一本杉から百メートルほど離れた場所に倒れる士郎の姿を認めると、一人は苦笑の吐息を漏らしながら、一人は無表情に、気絶したままの士郎を見やる。

「全く……無茶をする」

「彼が衛宮士郎……か」

 静かな威厳を含んだ低く響く声。

 それよりは若干高い、ハスキーな女の声。

 やがて、座り込み傷付いた士郎の状態を見やっていた女の方が徐に立ち上がると、愛用のシガーボックスから一本、タバコを取り出しながら声を上げる。

「彼の封印指定……『錬鉄の魔術使い』が正義の味方とは、これ程面白いジョークは無い。なんでも聖杯戦争勝者だとか言う触れ込みがあるそうだが……成る程、中々の曲者のようだね」

 言いつつ、百円ライターで火を付け、深く吸い込んだ後にまずそうに煙を吐き出した。そんな様子に頓着せず、もう一人の低い声の人物が言葉を繋ぐ。

「まぁ愛弟子の肝煎りじゃしな。そこらの二流魔術師とはあらゆる意味で違うという事じゃろう。ま、それぐらいで無ければこちらも張り合いが無いがの」

 そこで、ふと思い付いたと言う様に、傍らで相変わらずまずそうに煙を吐き出す女へと視線を向ける。

「しかし……蒼崎姉妹の片割れが本当に動いてくれるとは、どういう風の吹き回しじゃ?」

 その言葉に蒼崎家長女……蒼崎橙子は相眸を鋭く歪めた。

「……そちらから依頼しておいてそれか。それに、それはこちらの台詞だ。かの『宝石翁』が愛弟子の知り合いと言うだけで、なぜこの男にこだわる?」

 それは淡々としながらも、敵意すら含んだ言葉だった。質問に質問を返された事にも悪びれず、軽く受け流しながら、宝石翁の方は飄々と橙子の質問に答える。

「なに、一度会って面白い小僧だと感じてな。協会の有象無象の者供に素直に渡してやるには、ちと惜しいと思っただけじゃ」

 そう言って快活に笑う老人に、橙子は無表情のままだ。

「……そうか、それで私の手が必要だったという訳か。確かに協会の目を欺くには、これ程適した手もあるまいよ」

 そう言いながら、しかし目は笑っておらず、視線も鋭いまま続ける。

「だがいくら客とは言え、こういう事は今回限りにしてもらいたいな。私が魔法使いと折り合いが悪い事を知らない訳では無かろう」

「……くっ、気の進まぬと言うにこの依頼を受けるとは、かの小僧に何か言われたのか?」

 面白そうにくっくっと吹き出す男……キシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグに、常人ならばそれだけで心停止するのではないかというような、痛烈な殺気の視線を向ける橙子。

 まるで人を弄ぶかのような言葉にさらに不快感が募る。まあ、橙子を知る者でそのような真似が出来るのは、この老人を含めても片手で数えることができる人数しかいないだろうが。

 脳裏に黒髪黒瞳、ついでに黒ぶち眼鏡の人の良さそうな顔をした社員の顔を思い出しながら、橙子は吸っていたタバコを手近な木に乱暴に押付け揉み消した。

「……別に黒桐は関係無い。単純に衛宮士郎という人間への興味があっただけだ。無駄話はやめて、依頼の方を果たせてもらおうか」

「ふむ、確かにの。協会の追っ手が来ないうちに済ませるのが得策か」

 そう言って一歩下がったゼルレッチに対し、気絶したままの士郎に橙子は声を掛ける。

「さて……『錬鉄の魔術使い』君、光栄に思いたまえ。蒼崎橙子謹製、最高にして最後の試作品である成長する人形により、第二の生を謳歌出来るのだからな」

 士郎は反応しない。

 その言葉を初めて士郎が理解するのは、まだ先の事である。

「しかし……本当に『あれ』を使って良いのか? 本人は相当混乱すると思うが……」

 まぁ私にとってはどちらでも良い事だが、と続ける橙子に、ゼルレッチは笑みを浮かべたまま答えた。
その瞳には若干のいたずらっぽい光が覗く。

「かまわんさ。まぁ、最初に自分の姿を見た小僧がどんな反応をするかと言うのは、確かに見物だがな」

 その言葉に、変わらず無表情だった橙子の顔に薄い笑みが浮かんだ事を、見逃すゼルレッチでは無かった。

 月は変わらず。

 星も瞬く夜空の元。

 そうして、奇妙な3人の姿は闇に消えた。

 その後の運命を知らず、衛宮士郎はただただ、月に見守られて眠り続ける……。

 

 

Act.1 End.


 

 

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