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Sword of A's Act.4

 思えば、きっかけは些細な事だった。

 とある日の午後、友人に雑事を頼まれたその日。

 道場の掃除を終えたのがもう夜も遅く。普段暖かな冬木には珍しい冷え込みが見られる晩。

 帰ろうとしてその違和感に立ち止まったのは、道場を出て、空を見上げた後だった。

 物音。

 金属を打ち合わせる時に発する甲高いそれは、映画やドラマのような似せた物ではない、本物の空気があったことに、当時の自分は気付けなかった。

 赤い稲妻に、白黒の双風。

 校庭で見たものは、その二つ。

 互いが互いを牽制しながら……高まりあう力と力。
 
 そう、それは、

 今日のように、月を覆い隠す雲が流れる夜に起こった出来事だった。

 衛宮士郎が完全に日常から逸脱する、そのきっかけたる出来事の始まりは。





「これは……」

 硬直する。それこそ目の前に写る光景が信じられない、と言うように。

 目の前には想像を絶する光景が広がっていた。

 紫の光と、金の光。

 空中を、まるで踊るように二種類の光が交差する。それだけで、衛宮士郎の中の何かが沸騰しそうな衝撃を受けた。

 あれは何だ? 人なのか? なぜ戦っている? そもそも、これだけの争いを堂々と行って、周りに何も気付かれないのか……?

 その事に、自分はあの時と違い答えが出せる。『あの経験』と『その後の経験』が教えてくれている。

 あれは魔術師。しかも、サーヴァントクラスの能力を持ったとんでもない存在。

 あれがこれだけの戦いを行えるのも、大規模な……それこそ大魔術に匹敵する強大な結界を、この場に敷いているため。

 それほどの力を持ったモノが、自在に空を飛び、高速でぶつかり合う。どんなにあり得ないと声を出しても、現実を払拭する事は出来なかった。

 やがて……数度の激突の後、その姿が鮮明に映った。

「っ!」

 夜の闇、そこに映し出された姿に息を呑む。

 空中で制止し睨み合うその瞬間、皮肉にも自分の目の良さから、その姿をありのままに捉えてしまっていた。

 それは、金の髪を二つに分けた、美しい少女だった。

 真っ黒なゴスロリを意識した衣装と、金色の刃の鎌を持つその姿に、ともすれば『死神』を連想してしまうのは、彼女の持つ静かな気迫故のことだろう。

 そして、紫の……甲冑を纏う騎士。

 豊かな髪を後ろで一つに纏め、夜闇に鈍く光る銀の甲冑は、どこと無く自分が出会った『剣の騎士』を彷彿とさせた。

 どちらも、ここが『戦場』である事を忘れそうになる危うい美しさ。だが、自分に呆然としている暇は無かった。

 騎士から、まるで爆発するかのような魔力の高まりが発せられる。

 それはいつぞや……ランサーが校庭で見せた、魔力の暴食に近い。

 その様子にまずい、と思ったその瞬間、騎士が金色の少女へ突進した。その速度、辛うじて目で追えるだけで反応できない。

 金色の少女は素早く魔力障壁を展開し防ぐが……それを容易く貫き、返す刀は炎を纏って、気合を込めた一閃と共に、少女の鎌へと打ち据えられた。

 閃光、衝撃

 たまらず、近くのビルへと吹き飛ばされる少女を、ゆっくりと睥睨する様に見つめる騎士。


 
 どくん……。

 再び、胸の中の鼓動が早くなる。

 

 そして気が付けば、矢も盾もたまらず、飛び出したい衝動を必死に抑える自分の姿があった。

 自分がその場所に行ったところで、どうする事も出来ない事は分かっている。あのような規格外の相手に馬鹿正直に自分が挑んでも、五秒と持たず殲滅されるだろう。

 だからこそ、その場で何をすべきかを考える。

(考えろ……自分がどうする事ができるのか……どうやったら、あの戦いを治めることが出来るのかを)

 思考する。

 自分が出来る事、しなければならない事は何なのか。

 元より剣を創ることしか才能が無い自分の魔術で、どうやってあの戦いに立ち向かうのかを。
 
 目を瞑る。

 まずは状況を整理するため、そして落ち着くために、この戦いに出会う前の出来事を思い浮かべた――。

 

12月2日 PM 7:44 海鳴市 某住宅街

 

 溜め息を吐きたい時、というものをここ二日で少なくとも十回以上経験する日が来るとは、昔の自分は考えもしなかっただろう。

 夜の住宅街、街灯の明かりの元をとぼとぼと歩きながら、手に持ったメモ用紙を見つめる。そこには、詳細な店の名前と住所が十軒弱、記入されていた。

 それをぼんやりと見つめ……やがてくしゃくしゃと音を立てて丸めながら、近くにあった自動販売機横のくずかごに投入した。

 その時、絶妙なタイミングで吹いた風が投入した紙屑の軌道を僅かにずらす。結果、紙屑は、くずかごの縁に当たって、ぽとりと地面に落ちた。それを見ながら、先ほど公園で感じた哀愁と同じものを背中に感じ……もはや何度目かも判らない溜め息を吐いて、空を見上げた。

「全滅か……まぁ、そりゃあそうだろうな」

 図書館を出て約二時間。その間、自分の技能に見合うバイト先として選定した料理屋、雑貨屋、酒屋(果ては、イギリスでの経験を生かしてどこかの屋敷の執事、も探してみようかと思ったが、さすがに非現実的すぎるため思い留まった)を巡り、時には不審の目で、時には大人な笑顔で、時には警察を呼ばれる寸前までという対応を繰り返し、気が付けば当ても無くウロウロと住宅街をうろついていた。

 言わずもがな、結果は惨敗。事前連絡なし、しかも給料を日払いで、などと言う条件で来た自分が全面的に悪いとは言え、現代社会の厳しさというものを改めて実感した瞬間だった。

 まあ、何時までもため息ばかり付いて入られない。相変わらず厳しいが、どうにかしてこの状況を乗り切れるように思考しなくてはいけない。ゴミをキチンと捨て直すと、やれやれといったように肩をすくめ歩き出す。

(とりあえず、当分野宿は仕方ないにしても、どこかから食料だけでも調達しないと……ん?)

 最悪ホームレスに混じって、期限切れの弁当を貰いに行くことも視野に入れながら考え込んでいた、その足がぴたり、と止まる。

 一見すると何でも無いような街並み、それが一瞬歪んだように見えて、目を擦(こす)る。

(……気のせいか?)

 今見た光景が夢か幻か……確認するように改めて空を見上げれば、そこには、星の光すら差さぬ曇天が変わらずに広がっている。が……。

(空、あんなに暗かったか?)

 何でもないはずの光景に、どうしても違和感が拭えない。

 自分の中の嫌な予感が膨らみ続ける。似たような印象をかつて何処かで感じた気がして、早くなる鼓動。

 やがて急かされるように、その視線を繁華街へと向けた。

 風が一陣、自分の脇を駆け抜け髪を揺らした。

 過去の経験から、この現象に合致する例が無いかを思考する。はたして、それは記憶の中のある光景と一致した。

(そうだ……程度こそ違うけど、学校でライダーが使ったあの結界に感覚が似てる……ってちょっと待て!)

 他者封印・鮮血神殿(ブラッドフォート・アンドロメダ)。

 かつてそれを使って慎二が行なった所行を思い出し、嫌な予感が現実味を帯びるのを実感する。

(広域結界……それが張られているって事は、魔術師同士の争いがあるって事か? こんな街中で!)

 在りし日の記憶が蘇る。

 幼い頃の、炎の中の地獄絵図。

 五年前、学校を舞台にした悪夢。

 それらは全て、たった七人と七騎による『戦争』の被害の結果だ。

 さすがに、そのような事が早々あるとこの時は思えなかったが、最悪の事態……海鳴の街であの光景が再現されるという事態に陥ればどうなるか、その結果は火を見るよりも明らかだ。

「くそっ――――!」

 緊張と焦りがさらに肥大し、いても立ってもいられず、先ほどまでいた繁華街に向けて走りだす。

 その心には僅かばかり、今の状況が全て気のせいであって欲しいと言う願いと同時に、それがとても低い確率だということも感じていた。





「ここにも人はいない・・・・・・」

 繁華街に戻ってからまず気付いたのは、全く人通りの無い歩道。

 車もなく、信号機だけが変わらず明滅する道路と人気の無いビルの取り合わせは、この様な状況でなければ、幻想的な光景と感慨を受けたかもしれない。

 取りあえず、手当たり次第に店の中に顔を突っ込んで見たものの、そこも外と同様、ゴーストタウンさながらの無人の野が連なるのみだった。まあ状況として、他者を巻き込まないで良い事は不幸中の幸いかもしれない。

 その中で思考する。自分にとって最良の選択を取るべく、過去の事例を引っ張りだし、それらを並べて推考。

(……ライダーが使った結界のように、人の魔力を強制的に奪う類いのものでは無いな……しかし効果範囲は段違い、さらに結界の基点となる魔力の元も感じない……か)

 調べれば調べるほど、その出鱈目さに戦慄する。

 魔力の反応を調べるに、それはほぼ街の区画一つを丸ごと囲む形で展開されており、遠坂仕込みの魔力走査でもその基点となるべき紋章、または護符等が見つからないとなると、これは周到な用意をされたものでは無く、何者かが自身の魔力を元に封印を張ったと見るのに相応しかった。

 だがそれは、とてつもない力を持った魔術師がこの街に存在する事になる。それこそサーヴァントや魔法使い、死徒二十七祖といった存在に匹敵する力を持っている事は間違いないだろう。

 キャスターが柳洞寺を神殿化していたことさえ生温い、と言わざるを得ない状況に、嫌な汗が背中を這う感触。

(くそ……どう考えても、自分ひとりの力で解決できる問題じゃない)

 あれから五年。多少魔術の使い方が上手くなったとはいえ、人外の……それこそ前述した相手と一人で戦うには、今の衛宮士郎では力が足りない。

 その無力さに歯噛みしながらも、なるべく冷静に、今はまだ状況を探ろうと再び調査に戻ろうとした……その矢先。

 こちらのその瞬間を狙ったわけでもないだろうが、破砕機が鋼鉄の鉄球を老朽化したビルに当てるような音が響いた事に驚き、弾かれた様に顔を上げた。

 と同時に、ここから目視で三キロほど先のビルから昇る、灰色の煙を確認する。

(く……まずい、もう戦いが始まっている――――!)

 状況が整理できていない現状では、不用意に動く事は警戒して然るべきだが、動かない事でこちらが巻き込まれてしまっては本末転倒というものだ。

 取りあえず今の状況を探るべく、急いで状況確認が出来そうな場所を探す。なるべく障害物が少なく、遠くから状況を見渡せる場所となると……。

(やはり、どこかのビルの屋上が一番だろうな。……全く、まるでセイバーとライダーが戦った時の焼き直しじゃないか……)

 その時の光景を思い浮かべながら……視線は鋭く周りを見渡し、取りあえず、近くにあった一番の高さを誇っていそうなビルに向かって全力で駆け出した。





 どれだけ上りを繰り返したのか……足の方が悲鳴をあげ、汗だくになったシャツが肌に張り付き、不快感が増す。

「はぁ……はぁ……何もこんなところまで一緒じゃなくても……」

 悪いとは思いつつも強化した体で裏口の扉に体当たりを敢行、そのままビルに飛び込んだのは良いが、エレベーターは当然の様に止まっていたため階段を使い、息を切らしながら上へ上へと上る。あの時は途中までエレベーターで行けたが、今回は最初から階段を使っている事が、最大の相違点と言えるだろうか。

 普段の体力も無いこの状態で延々と登り続ける事はまさに地獄に近いが、それでも、足を止める事はできない。こういう有事の際の不運さも、いつもの事だと割り切れる自分が悲しかった。

 階を増すごとに遠くで地鳴りのように音が響き、窓ガラスがそれに合わせびりびりと振動する。その様子からかなり本格的な戦いになっている事を実感し、ここが戦場になるのも時間の問題かも知れないという思いが、俄かに焦りを生む。

(まずい……早くしないと……)

 現在階数を確認したが、まだ屋上までは十段ほど上る事になる。萎えそうな気力を何とか奮い立たせ、更に上へ、上へ、上へ……。

 やがて、ようやく目の前にゴール、とでも言うように分厚い鉄の扉が見え……その目の前で足を止めた。

 ぜいぜいと喘ぎながら両手を両膝に乗せ、暫く呼吸を整えてから……徐に扉を凝視する。

 幸い鍵は付いていない為、押し開けるだけでこの扉は開く。はやる気持ちを抑えノブに手を置いた所で、回そうとする手がぴたり、と止まった。

 この先は自分が今まで戦ってきた相手を遥かに凌駕する存在が確実にいる。己の二十数年の人生でそのような戦いに身を置いたのは、幸か不幸か、五年前の聖杯戦争以外には無い。

 もし正面から戦いを挑まれれば、敗北するのは自分の方だろう。

(でも……どの道ここは結界の中だ。逃げた所で何も変わらない)

 覚悟なら当についている。自分とて死にに行くわけではなく、死中に活を見出すために行くのだ。

 それだけを確認するだけで十分だった。まだ心のどこかはそこへ向かう事を躊躇するが……それを無理やり押さえ込み、ノブを回す。

 ぎいいという軋んだ音を立てながら、徐々に開け放たれる扉。

 

 そして、完全に開ききったところで、

 衛宮士郎の目の前に「それ」は飛び込んできた。

 

「え…………」

 最初見たときは、ホタルか何かの虫かと思った。

 高層ビルには珍しく、金網が張り巡らされていない屋上の先、目視で約二~三キロといった距離に存在する光は踊るように、そして戯れるように、六つの光を撒き散らし、交差、離脱を繰り返す。

 だが違う。

 最近になって、強化魔術を使用しなくてもその程度の距離ならば詳細を確認できるようになった瞳でその光景を見たときに、全身が総毛立つような戦慄を覚えた。

 それはいつぞやの夜の光景に似ていた。

 そう、あまりに規格外な存在を目の当たりにして一歩も動けなくなった、あの夜の光景に。

 六つのうち比較的こちら側に近い二つの影……そこに映る姿は、一人の剣士と、一人の魔術師のように見えた。

 互いに互いを牽制し凌ぎ合い、相手を呑み込もうとする力と力の衝突。

 美しき二つの影が、自由自在に高速で滑空する。それは魔法の域に達する業であろう。

 重力制御の魔術というものは、凛やキャスターが使ったものを見た事があったが、あれはあくまで空中からの滑空速度を遅らせるためと、宙に「浮く」物でしかなかった。

 決して目の前の、戦闘機のドッグファイトの如く高速で動くものではない。もしかしたら使えるのかもしれないが、それには魔力が上がった今の衛宮士郎よりも、確実に多くの魔力が必要になる事は間違いないだろう。

 しかし自分には、呆然とする間すら許されていない。

 何十合かの打ち合いの末、金髪の少女が凛の宝石魔術を彷彿とさせる飛び道具での牽制を行なう。それを避けるまでもなく防ぐ剣士の防御魔術……その隙、明らかに動揺した所へ叩き込まれた剣士の必殺の一撃により、少女が為すすべなく吹き飛ばされた。

「なっ――――!」

 思わず飛び出そうとする自分を必死に自制し、剣士の様子を確認する。

 剣士のほうは、自分の一撃で落下した少女の様子を睥睨(へいげい)しながら……徐に、剣に向かって取り出した「何か」を放っていた。

(あれは……弾丸?)

 見た感じではそう捉える事が出来る、赤い物体。それが蒸気と共に開いた剣の開口部へと落ちた……と思った瞬間、開いていた開口部が、光と共に閉じる。さながら、ショットガンなどの銃器のリロードに似ていた。

(遠いから解析は無理だけど……あれは宝具とか、そういった類のものじゃない)

 少女の鎌もそうだが、見た目だけを見ればそれは「武器」よりも「機械」に近かった。

 単純に切り結ぶ剣と言うよりも、弾丸を補充し何らかの力……恐らく魔力……を爆発させる銃器のような要素が絡んでいるのだろう。実際、先ほどの突進技を使う際に排莢(はいきょう)していた所からして、弾丸を魔力に変換し出力を上げている事は十分に予想できた。

(やはり、俺の世界の「魔術」とは根本的に違う……だとすれば空を飛ぶ「あれ」も、こちらの「世界」の魔術なのか?)

 その様子を見た事で、ようやく自分でもここが「異世界」であるという実感が沸いた。

 だが、それが今更分かった所で、根本的な問題の解決にはならない。問題は、ここで自分はどう動くかである。幸い、先ほどの二人がこちらに気付いた様子は無く、残る四つの光も、只管(ひたすら)に衝突を繰り返し、こちらに近寄る気配も無い。まあ、あの二人のほかにも、サーヴァントクラスの使い手が少なくとも四人いるだろう事は、ぞっとしない事実であるが。

(考えろ……自分がどうする事ができるのか……どうやったら、あの戦いを治めることが出来るのかを)

 まず接近戦は話にならない。二次元と三次元戦闘の違いは元より、上手く地上に誘き寄せたとしても、相手のあの技量ではむざむざ死にに行くようなものだ。

 衛宮士郎があの戦いに介入できるとすれば、反撃の手を全く許さずに攻撃する事のみ。

 その方法で採れるのは固有結界の使用による対空迎撃機能の追加、二十七の回路を総動員した全投影連続層写(ソードバレル・フルオープン)による不意打ち、弓矢による遠距離射撃のどれか、という事になるが……。

(固有結界や全投影連続層写では駄目だ。結界に閉じ込めるにしても不意を撃つにしても、乱戦になればこちらに勝ち目はない。)

 例え数時間、固有結界を維持できる魔力があっても、閉じ込めるだけでは無論勝てない。そもそも、衛宮士郎が肉薄できたサーヴァントクラスの怪物といえば、かの英雄王のみだ。そしてそれとて、英雄王自身に油断があったゆえの結果でしかない。普通の魔術師ならばともかく、空すらも戦場にする者達複数と戦っても、自分はただの的にしかなり得ないだろう。

 同様に、全投影連続層写も実用的ではない。一撃で全ての者に攻撃を当てられるなどまず無いし、避けられて自分の居場所がすぐに分かってしまえば、元も子もない。

(そうすると……遠距離射撃の方か?)

 消去法で考えるならば、採るべき手段は弓矢による遠距離攻撃……かつてアイツが冬木のビルの屋上から、自分に向けて使った攻撃方法だが……。

(いや……待て、そもそも俺は、前提を間違えているんじゃないか?)

 そこまで考えて、はたと気付く。

 今まで自分は、サーヴァントクラスの相手と戦う事を意識し過ぎていた気がする。

 無論、戦いは綺麗事で終わらないのが通例だ。あれだけの相手に、全力で行かなければ相手にならない事も目に見えている。だが、衛宮士郎の優先事項は「敵を倒す事」ではなく「戦いを止める事」なのだ。

 その前提に立ち返ったその瞬間、天啓のようにある方法が脳裏に閃いた。

 その方法を検討し、ついで自分の能力と実現性を鑑みる。結果は良好。自分もあの時と違い、明確にそれを成す為の「力」がある。

 無論この方法は今まで見てきた戦いの様子と、地道な魔力走査で得た推測でしかないが、最悪、外にこの状況の異常性を伝えることはできるかもしれない。そしてそれは自分……衛宮士郎だからこそ取れる手である事も事実だった。普通の魔術師が使えば、それは身の破滅を指す事は間違いない。

(全く……こんな事が遠坂達に知られたら、また一週間説教漬けだな……)

 その重大性に、しかし気負わぬ苦笑を浮かべ……徐に瞳を閉じ集中。その後、魔術発動のトリガーを引いた。

「――――投影、開始(トレース・オン)」





 その異変に、最初に気付いたのは高町なのはだった。

 無残に傷ついたデバイスと共に、回復用の結界の中で一人、戦いに臨む仲間たちの姿を見つめる。だが状況はあまり芳しくない。先ほど自分やフェイトが為すすべなく叩きつけられたさまを見るに、一対一の実力としては向こうの方が上のようだ。それを確認した瞬間、なのははユーノの忠告も忘れ一人、歩き出していた。

「助けなきゃ……」

 既に満身創痍。少し動くだけでも、体に刻まれた傷が疼(うず)く。

 それでも止まらず、一歩ずつ足を前へ、前へと進めていく。

「私がみんなを……助けなきゃ」

 とても小学生とは思えない責任感のあるその様子……だが次の瞬間には、年相応のきょとんとした顔で、視線を横へと投げていた。

「え……?」

 それは、不意を打たれた故の驚きだった。

 魔力。それが、ありえない場所から……自分が見る六つの光からさらに離れた場所から発せられていた。

(な、なにこの力……)

 それは、例え様が無い力の波動。

 単純な力の強さであれば、なのはのスターライトブレイカーやフェイトのサンダーフォールのような、大規模な魔法の前には及ばない。だが、そこに込められた「意思」とも言うべきものが、なのはの心のどこかに触れるのだ。この様な魔法を使えるもので、該当する人物を調べると……ある一人の少年が、脳裏に浮かぶ。

(この感じ……クロノ君? でもそれだと、わざわざあんな場所から魔法を撃つ理由が分からないし……)

 黒髪黒瞳、そして黒ずくめの少年を思い浮かべ、なのはは同時に否定した。

 確かに、質実剛健といった感じの黒ずくめの少年に、この魔力の波動は一番近い。

 だが同時に、あの少年がこの場に居合わせるにはひどく場違いな感じがした。

 もしあの少年がこの場に居合わせるのならば、フェイト達と共にこの場に直行していただろうという思いもある。だがそれ以上に、あの少年とは近く遠い「何か」をなのはは真っ先に感じていたのだ。

(何だろう……何だか一度、こんな感じの力に会った気がする……)

 自分でもなぜそう思うのかは分からないが、この感じには覚えがある。

 それは数ヶ月……いや、下手をすると数日中に会った事があるような既視感。そのような短期間に会った事があると、なのはの直感が告げるのだ。

(そうか、これって三日前に感じた――――っ!)

 なのはが何らかの答えを出そうとした、その瞬間。

 まるで、それを待っていたかのように『なのは達の争いとは全くの逆方向』へと、一条の光線が駆けていき……それは結界の端に触れた瞬間、爆音を轟かせ大爆発を起こした。

(な――――)

 周りを見渡せば、先ほどまで戦っていたはずの光が全て停止している。一様に、ありえない光景に呆然としていると感じるのは、なのはの考えすぎだろうか?

 結界の方を確認すれば、あれだけの衝撃を受けてもまだ健在のようで、その目には黒い結界が変わらずに映る。ただ、その結界の魔力が見るからに減退している事に、なのはは驚いた。

(誰か……私の知らない誰かが、結界を破ろうとしているの?)

 それは、なのは達にとって願っても無い事だった。

 元より、自分も皆を救うために、やろうとしていた事だ。それを見ず知らずの誰かが代わりにやろうとしている事に、しかし疑問は残る。

 相手は何者なのかということ。

 魔力からして魔導師なのだろうが……なぜ自分達の前に姿を現さないのかということ。

 そんな事を考える傍ら、再びの爆音に頭を上げる。

 そして……先ほどまでフェイトと激突していた紫の光が、戦いの場から離脱し、一直線に魔力の元へと向かうのに気付いたのも、同じ瞬間だった。





 あるビルの屋上。激突を繰り返す光から少し離れた場所で、一人の女性が今起きた出来事を呆然と見つめていた。


 薄い若草色の帽子と、それに合わせた僧服のような服装、白磁の肌と淡い金髪の髪というスタイルから、母性に満ちた司祭であるとでも言われれば誰もが納得するであろう容姿の女性……泉の騎士・シャマルは、微笑を浮かべれば誰もが暖かい気持ちになるであろうその顔に、今は驚愕の表情を浮かべていた。


 一条の光。それが自分の視界を掠めた、と思った瞬間、結界の淵に触れ大爆発を起こしたのだ。それも無理からぬ事ではある。

 だが、そこはさすがベルカの騎士の参謀というべきか、いち早く立ち直ると、情報を集めるために仲間に念話を送る。

『どういう事? シグナム、そっちでは何が起こったか分かる?』

 しかし、返ってくる答えは芳しくない。

『わからん……管理局の仲間がいたのか……だが、伏兵を置いている感じはしなかった。恐らく増援としてたどり着いた魔導師がいると見るのが、一番分かりやすい答えだが……』

 そういうシグナムの口調にも、若干困惑が残っている。それはそうかもしれない、とシャマルも思った。

 何せ、誰も意図もせずに唐突に反応が現れたのだ。しかも先ほどの破壊力を見るに、魔力量はAA~AAAクラスに匹敵する。そんな存在がいきなり、何の脈絡もなしに現れれば誰であろうとも驚愕するであろう。

 やがて……何かに気付いたようにヴィータ、そしてザフィーラが口を開いた。

『待てよ、この感覚って、三日前感じた魔力反応に近くないか?』

『確かに……ここに来る前に我が感じた意思にも近いものがある……』

 三日前、唐突に感じた力の波動。その大規模な力の波動と同じものをシャマルも……そして恐らくシグナムも感じているだろう。

 それについて、シャマルが口を出そうとした矢先……再び響いた爆音に、思考を中断される。

 それとほぼ同時、シグナムがいち早く飛び出していくのが確認できた。

『ヴィータ、テスタロッサの方を頼む。私は新たに現れた魔導師へ向かう』

『っておい、いきなり押し付けて行くなよ! そっちに行くのにも時間が掛かんだぜ!』

 言いながらも、反応してシグナムを追おうとした少女……フェイトへ向けて、牽制のために、赤い光を纏った野球ボール大の光――――「シュワルベフリーゲン」を数発撃ち込み、その動きを止めるヴィータ。その様子を確認している最中、シャマルに向け念話が入った。

『シャマル』

『何?』

『リンカーコアを……ヴィータが最初に戦闘不能にした魔導師のものを、頼む』

『……分かってるわ。そっちも結界が破られないように、注意して』

 それだけを語り、高速でその場を後にするシグナム。それをよそに、シャマルは右手に付けた金色のリングを見つめた。

(さっきの攻撃で結界が相当不安定になってる……早く終わらせないと、こっちが危ないかもしれない)

 ゆっくりと、まるで祈るように黙祷した後……その手を上へと掲げる。

 目標は視線の先に……自分達と同じように、呆然とした顔の少女が映る。

 瞬間的に胸が痛む。

 見た目の年の頃を見れば、それははやてとほぼ変わらない。

 だが立ち止まれない。立ち止まるわけには行かない。

 自分達が騎士の誓いまで破り、ここまでやってきた事をここで止めるわけにはいかなかった。

 やがてシャマルは、迷いを打ち払うように……一言、しっかりとした声を、自分のパートナーに向けて放っていた。

「クラールヴィント……導いてね」





「――――投影、開始(トレース・オン)」

 幻想を形にするその言葉と共に、一振りの捻じ曲がった剣が自分の手の中に現出する。

 偽・螺旋剣(カラドボルグ)

 アルスターの英雄・フェルグスが所持したとされる「硬い稲妻」「煌く剣」等の名を持つ魔剣。

 だが、その魔剣は原形を留めているとは言いがたかった。

 名の通り、螺旋を描くように剣身は歪められ「切る」よりも「突く」事を主眼に置いた形状は一種の異様さを見る者に与えるだろう。

「――――投影、重装(トレース・フラクタル)」

 そのまま、二本目の魔術回路を走らせる。右手に持つ偽・螺旋剣とは別に、こちらには何の変哲もない黒塗りの弓が握られた。

 だが、これだけでは足りない。この方法はとにかく投影の速度がものを言うのだ。休む間もなく、三つ目の投影の設計図を思考……。

「……っ! く……」

 その瞬間、響いた頭痛に、書き掛けの設計図を一度停止(フリーズ)させる。

 この「世界」に来てから散々な酷使の末、ついに悲鳴を上げ始めた体に、しかし休む間も惜しいというように魔術行使を再開する。

 少なくとも……あと強化一回、投影二回程度の余裕がないと万全とは言えない。

 それを念頭に入れ……全身を針に刺されるような痛みと同時に響く頭痛を無視し、出来た設計図をいつでも投影できるように圧縮し保存、そのままの状態で「戦いの場とは全く関係のない方角」へと弓を番(つが)えた。

 ゆっくりと引き絞るその瞬間、自分の目にはたった一つの物事しか見えなくなる。

 視線……「魔術使い」としての視覚の先に、膨大な力と厚さを持つ魔力の壁が写る。それをしっかりと見据え、一つの言葉を詩にのせる様に紡いだ。

「――――I am the bone of my sword.(我が骨子は捻じれ狂う。)」

 それと同時……限界まで撓(たわ)めた力を解放――――そして、その剣の真名を開放した。

「―――“偽・螺旋剣”!」

 轟音と共に駆け抜けて行く一条の光。それが壁に到達した瞬間、開放された力が縦横無尽に結界の中を蹂躙する。その結果を満足に見る事もせず、再び、保存しておいた投影魔術を起動させる。

 弓道で言うならば甲矢と乙矢。だがその本質は武道の様な精神統一ではなく、ひたすら実戦として「撃ち抜く」事を主眼に置いた、似ても似つかぬものだ。

 取りあえず、あとどれだけ残り時間はあるのか……もう、一発目の時点で、こちらの意図を看破させられていると見て良いだろう。ならば、ここからは純粋なスピード勝負。再度投影した偽・螺旋剣を弓に番え放つ。

 再びの爆音。だが、自身の顔には安堵は浮かばない。

(っ! まだか……解析の結果から想像はしてたけど、なんて堅い壁なんだ……)

 宝具二発という攻撃に、目に見えて亀裂を刻む結界。だが、まだ一歩が足りない。

(まだ、間に合う――――!)

 そして三度投影した偽・螺旋剣を弓に番えそれを先ほどと全く同じように撓める。

 先の二撃と違うのは、溜めの長さ。

 次の一撃が必殺となれと、願いを込めるその瞬間……一分、一秒が、まるで一時間になったかのような時間の錯覚を覚える。

(まだだ……まだ、もう少し……)

 

 

「そこまでにするんだな」

 

 

 だが、その弓を放つのは叶わない願いだった。

 それはあまりに強大過ぎる力の片鱗。それに触れた瞬間、まるで蛇に睨まれた蛙の様に身動き一つ取れなくなる。

 もし、ここで少しでも手を動かせば、それだけで終わってしまう予感がある――――。

 

 

「……貴様が何者かは知らん。だが戦いに横槍を入れた以上、自分がどうなるかも理解できていよう?」

 

 

 

 恐る恐る上を向く。

 風が出ていた。冬の海のから吹く冷たい風に揺られ、一人の騎士がその場に浮いていた。

 それは圧倒的な死の具現。

 それが立ち塞がっている事に、だがしかし、それはある種の懐かしさを自分の心に去来させた。

 その光景ならば、例え地獄に落ちたとしても鮮明に思い出せるだろうと思った、ある夜の出会い――――。

 

 

「抵抗する気が無ければ大人しく武器を捨て両手を挙げろ。そうすれば危害は加えん」

 

 

 いつの間にか流された雲。そこから冴え冴えと地上を照らす月が出ていた。

 暗い結界越しに、それでも月光を照り返す鋼を見て思う。

 この世に神様がいるのならば……随分と憎い演出をしてくれるものだ、と。

 

――――そしてこの日、この夜。

 衛宮士郎は再び「運命」に出会った――――

 

 

 

Act.4 End

 

 

 

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使徒二十七祖ではなく、死徒二十七祖です。
機会が直しておいた方が良いと思います。
名無しの放浪人 2007/11/10(Sat)18:23:37 編集
無題
>>サーヴァントクラスの能力
流石に言い過ぎだと思いますよ?
本人達自身は普通の人間クラスの身体能力(なのはなんか体育の成績が悪いくらいですから他のキャラクターもそれほど常識はずれでは無いはずです)ですから魔力で強化しても士郎とそう変わらないでしょうし、魔法の質にしても英霊とは比べるべくも無いでしょう
NONAME 2007/12/14(Fri)21:32:38 編集
無題
>>サーヴァントクラスの能力
私もそれはないと思いましたね。
故にヘタレ士郎も頑張れば戦えるのではないでしょうか?
NONAME 2007/12/27(Thu)02:15:50 編集
無題
>>程度こそ違うけど、学校でライダーが使ったあの結界に感覚が似てる
これはありえないと思う。どちらかというとキャスターの神殿のほうが近いのでは?

>>サーヴァントクラスの使い手が少なくとも四人いるだろう事は、ぞっとしない事実であるが。
人間クラスの中で身体能力が高いというだけで英霊と比べれないと思う。一応魔法つかっているからといっても9歳の女の子レベルだよ
??? 2008/08/26(Tue)00:05:37 編集
無題
>>サーヴァントクラスの能力を持ったとんでもない存在。
>>あのような規格外の相手に馬鹿正直に自分が挑んでも、五秒と持たず殲滅されるだろう。

なにこれリリカル勢どんだけ人外なんだ?
魔力を強化された士郎ならサーヴァントですら渡り合う事ができる。
なぜならギルガメッシュの真似事ができるから。
でもどうやらFate蹂躪SSっぽいし、宝具も弱く
設定されてそうだし無理ですねw
NONAME 2008/10/25(Sat)15:02:38 編集
無題
ちょw カラドボルグは一振りで三つの丘の頂を切り落としたって伝承も残ってるくらいの宝具なのにw
それが投影品でランク落ちしてるからって真名解放、しかも壊れた幻想まで使って壊れないとかww しかも二発www
結界堅いにも程があんだろwww
NONAME 2010/03/16(Tue)15:21:06 編集
無題
シャマルは泉の騎士じゃなくて湖の騎士です。今更ですが修正お願いします。真ん中より下くらいです。
NONAME 2010/07/28(Wed)23:32:51 編集
世界観
世界観の差からいって、なのはの世界は型月の世界の様な修正力が存在しないから、宝具にかかっている制限もなくなるし、なのはの世界にはない神秘の力もあるからもっと強力になると思う。
型月の世界でSLBぶっ放したら修正力がかかるか、抑止力のプライミッツが出てきそうなのと同じ感じ。
sky 2011/11/27(Sun)17:19:41 編集
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